ツバメはなぜ人の暮らす場所に巣を作るのか
ツバメが民家や商店の軒先
駅舎や車庫を巣の候補地として選ぶことには
明確な理由があります。
天敵であるカラスやヘビから
卵やヒナを守るために
人間の往来が多い場所を
あえて選択しているのです。
人がそばにいることで天敵が近づきにくくなり
繁殖の成功率が大きく高まるとされています。
この行動はツバメと人間の間に
古くから存在する
独特の共生関係を物語っています。
農村では水田の害虫を食べてくれる
ツバメを農家が大切にし
ツバメもまた人の暮らしの影に
守られながら子育てをしてきました。
日本でツバメが「幸運を運ぶ鳥」
として親しまれてきた背景には
こうした長い歴史があります。
注目すべきは、ツバメが巣を作る家を選ぶ際に
その場所の人通りを事前に
何日もかけて観察するという点です。
人の出入りが活発で
雨風を防げる軒や庇があり
泥が手に入る水辺に近い環境が揃ったとき
はじめてその場所を
巣作りの候補として絞り込んでいきます。
時期と巣作りの開始
巣作りは通常4月から5月にかけて
最も盛んになります。
早い個体では3月末に材料集めを
始めるケースもあり
梅雨入り前に産卵・抱卵を
終わらせようとする本能的な
スケジュール感がうかがえます。
《一日の行動パターン》
巣作り期間中のツバメは
早朝から夕方まで
精力的に材料を運び続けます。
夜明けとともに活動を開始し
夕暮れには巣のそばに戻って休息します。
天気の良い日には一日に何十往復も
材料を運ぶことが観察されており
その行動の活発さには
目を見張るものがあります。
ツバメの観察に出かけるな
、午前8時から10時頃が
材料運びのピークタイムです。
水辺や田んぼの畔で泥を集める様子を
じっくり観察できる可能性が高い時間帯です。
巣の場所の選び方とこだわりのポイント
ツバメが巣の場所として
重視する条件はいくつかあります。
まず屋根や庇が頭上にあることで
雨が直接かからないこと
そして巣が落ちにくいよう
設置できる垂直面や梁があること。
さらに飛び立ちやすい空間的な
余裕があることも欠かせません。
《玄関や入口付近が選ばれやすい理由》
特に玄関の軒下や店舗の入口付近は
人の出入りが特に多い場所として
積極的に選ばれます。
一見すると騒がしそうなこの場所が好まれるのも
すべては天敵対策の観点からです。
扉の開閉音や人の話し声は
ツバメにとっては安心の証でもあります。
巣を作る材料とその集め方
ツバメの巣の主な材料は
湿った泥と枯れ草、羽毛の三つです。
これらを組み合わせて固め
頑丈な椀型の構造物を作り上げます。
《巣の完成までにかかる日数》
新しい巣を一から作る場合
天候に恵まれれば約一週間から
十日ほどで完成します。
悪天候が続くと材料の泥が乾いて
使いものにならなくなるため
完成が二週間以上かかることもあります。
既存の巣を修繕する場合は
状態によっては二、三日で
産卵準備が整うこともあります。
巣作りを静かに見守ることが
ツバメへの最善のおもてなしです。
近づきすぎたり大きな音を立てたりすると
まだ土台が固まっていない段階で
放棄されてしまうことがあります。
産卵から巣立ちまで
巣が完成してしばらくすると
メスが産卵を始めます。
一度の産卵では4〜7個の卵を産み
一日一個ずつ産んでいきます。
卵は白地に小さな赤褐色の斑点が入っており
とても小さく繊細です。
抱卵はオスとメスが交代で行い
約14〜16日後に孵化します。
生まれたばかりのヒナは目も開いておらず
全身がピンク色で産毛もほとんどありません。
それでも巣の縁に口を向けて
エサをねだる本能はすでに働いており
親鳥が巣に近づくと一斉に口を開けます。
親鳥は飛翔中に昆虫を捕まえ
そのまま巣へと運びます。
ツバメの主食は飛んでいる小さな虫で
ユスリカ、ガ、アブ、ハエなどが
主なターゲットです。
ヒナが成長するにつれてエサの消費量は急増し
両親は夜明けから日没まで
何百回ものフライトを繰り返します。
ふ化から約20〜24日が経つと
ヒナは初めて巣の外へと出る準備が整います。
最初の飛行は不安定でも
数日のうちに自在に飛べるようになります。
巣立ちから一週間ほどは
親鳥が引き続きエサを届けながら
飛行の仕方を教えていきます。
ツバメの巣をめぐるトラブルと対処法
ツバメの巣作りで多くの家庭が悩むのが
巣の下に落ちる糞の問題です。
ヒナが成長するほど糞の量は増え
玄関先や駐車場が汚れてしまうことは
避けられません。
しかし、これはツバメが
安全な場所として選んでくれたことへの
ひとつのサインでもあります。
実際的な対処としては
巣の真下にダンボールや板を設置して
糞受けにする方法が広く行われています。
簡単に取り外せるよう工夫しておくと
子育てが終わった後の清掃も楽になります。
巣そのものは、法律(鳥獣保護管理法)
によって繁殖中は撤去することができないため
共存の工夫が求められます。
子育てが終わり、秋にツバメが
南へ旅立った後であれば
巣を撤去することは問題ありません。
ただし、翌年また同じ場所に
戻ってくることが多いため
できれば残しておくことが歓迎されます。
巣が残っていれば修繕だけで済み
巣作りの労力が大幅に省けるため
ツバメにとっても好都合です。
ツバメの巣作りが教えてくれること
ツバメが毎年同じ場所に戻り
泥を一粒ずつ運んで巣を仕上げていく姿は
季節の巡りそのものを体感させてくれます。
子育てを終えた親鳥が
くちばしいっぱいに虫を詰め込んで
帰ってくるたびに、巣の中から聞こえる
ヒナたちの鳴き声。
その小さな命の連なりが
軒先という日常の風景の中に
確かに息づいています。
都市化や農薬の使用増加
気候変動の影響でツバメの数は
減少傾向にあるとも言われています。
私たちが少しだけ意識を向け
ツバメが選びたいと思う場所を
残し続けること。
それが、春の訪れとともに
あの飛影を見上げるという
変わらない喜びを未来へと
つなぐことになるのだと思います。
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